院長から

「心の洗濯」を―『小さなデザイン 駒形克己展』―

投稿日:2020年9月25日 更新日:

敬老の日をはさんだシルバーウイークの4連休。春先から家にこもっていた時間を取り戻すかのように外出した人が多かったようです。わたしは岩手県立美術館で開催されている「小さなデザイン 駒形克己展」へ出かけました。外出の機会を待っていたと思われる老若男女が、美術館へ吸い込まれていきます。展覧会の名前の通り、大きくもなく派手さも無いかわり、シンプルな線で構成されたモノクロームのロゴデザインや単色のみを利用した小さな絵本が並んでいました。今まで目にしたことのある「ズッカ」のロゴや「コム・デ・ギャルソン」の招待状の文字デザインが彼の作品だったと知りました。

彼のデザイン事務所の名前にもなっている「ワンストローク」という幾何学模様の「ひと筆書き」の作品パネルの前では、わたしも頭の中で「なーるほど(ほんとにひと筆だ)」と絵をなぞりました。

2階の岩手の作家常設展は、萬鉄五郎、舟越保武、松本竣介、どの部屋も「貸し切り」で、嬉しいやら申し訳ないやらでした。無心に彼らの作品と向き合って外に出ると、いつの間にか頭の中の霧も晴れていました。知らず知らずに自分の中に沈殿していた「澱(おり)」が、絵画というフィルターを通してきれいになったような気がします。

”何の役にも立たない”といわれることがある美術――実用には遠く、必要とする人にしか意味をなさない、そんな”役に立たない”ものにどっぷりと浸る、ぜいたくな時間でした。