冬が来た
高村光太郎
きっぱりと冬が来た
八つ手の白い花も消え
公孫樹(いちょう)の木もほうきになった
きりきりともみこむような春が来た
人にいやがられる冬
草木にそむかれ、虫類に逃げられる冬が来た
冬よ
ぼくに来い、ぼくに来い
ぼくは冬の力、冬はぼくの餌食(えじき)だ
しみ透れ、つきぬけ
火事を出せ、雪で埋めろ
刃物のような冬が来た
季節が突然冬の厳しさを見せる日、もう秋は行ってしまったのだと実感する日、きっと思いだす一編の詩がこれです。岩手にゆかりの深い彫刻家であり詩人、高村光太郎には、四季の中でも冬の詩が圧倒的に多いのですが、それは四六時中石に向き合って作品を作る厳しさから来るものでしょうか。わたしはこの詩を、中学時代の教科書で知ったと思います。厳しい冬に向かって「冬よ ぼくに来い ぼくに来い」という強さ、りりしさには新鮮な驚きをおぼえたものです。今年の冬、ウイルスという大敵に向かって、「ぼくに来い」と言えないものの、真正面から立ち向かうことの重要性と困難は理解しているつもりです。
冬のあとにどんな春が訪れるのか、春に歌える詩が明るいものになるよう祈るばかりです。