院長から

「復興祈念コンサートのこと」その1

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先日、水沢のZホールで開かれた震災復興祈念「未来へ向かって 鎮魂の舞と希望の調べ」と題した催しものに行ってきました。サブタイトルは、「~震災から10年への思いと、さらなる復興を願って~」とあります。第一部が大槌虎舞、第二部は小山実稚恵さんのピアノ演奏とあり、当初の目当てはピアノでしたが、わたしは大槌の虎舞を見るのが初めてで、それも楽しみに出かけました。司会の方は、ご自身が岩手の沿岸部出身とのことで、このようなイベントの司会をさせてもらうことがとても嬉しい、と話していました。

大槌虎舞は、約300年前に三陸随一の豪商が江戸へ行き、当時人気だった近松門左衛門の浄瑠璃「国姓爺合戦」を観劇し、その中の大虎退治に感動し、これを故郷に持ち帰り創作舞踊としたということです。実際の虎舞は、二人一組でそれぞれ頭と尾を操って踊ります。「虎」は、極めてシンプルな頭(かしら)に続く1枚の黄色い布に虎模様が描かれて、そこに尾をつけただけのもので、その効果で虎の様々な動きや表情がよく見えます。見所(見せ所?)には多くの観客から拍手も起こり、演ずる側、観る側双方に熱が入ります。

虎舞のあと、出演者全員による「俵積み歌」の歌と踊りが披露されました。聴き慣れた南部俵積み歌と歌詞は同じで、リズムは少々違うもののなじみのある旋律で、豊作への祈りと喜びを歌う歌は会場の雰囲気を一層盛り上げました。大槌からいらした方たちは、「震災時に全国の皆さんに励まされて立ち直り、おかげ様で元気でやっています。今はコロナ禍にある皆さんを虎舞で励ましたい」とお話ししていました。

福寿荘では、今年もロビーで「震災メモリアル――あの日を忘れない」の展示を行います。東日本大震災翌日の全国紙や週刊誌、関連図書をはじめとして、今回は震災直後の施設内の写真の展示も予定しています。今年は、年明けから「震災10年の節目」という言葉を見聞きすることが増えました。あの震災で、自分自身の命以外の殆どすべてを失った人に「節目」という言葉は失礼とさえ思いますし、特にも東北では、「記憶の風化」どころかいまだ当事者である人も多いことでしょう。今はただ時薬(ときぐすり)の効き目を祈るものです。