院長から

「コロナ歌人」のこと

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新型コロナウイルスが日本に上陸してから、約1年半。そこここで「コロナ」の文字を目にしない日はありません。感染予防に世界中の人が留意しているといっても過言ではないでしょう。

きょうの朝日新聞に「コロナ禍 医療の前線を詠む」との見出しで、大阪府内の病院で救命救急医をしている方の歌が載っていました。

 

いつまでも 読み終えられず 仮眠室の 「ゴルゴ13」は開き癖あり

 

マスクでも 感謝でもなく お金でもない ただ普通の 日常が欲し

 

これよりも 内に入らせぬように 周りに引きたい ゾーニングの線

 

犬養楓 著 歌集『前線』 より

 

著者は医療最前線で、文字通り「命がけ」で働いているのに、時にはタクシーに乗車拒否されるという差別に遭ったりしているとのこと。なんと理不尽な、と思いますが、社会全体が異常事態の中にあり、人の心も疲れたり、ささくれたりもしているのでしょう。

ここには、医療従事者、患者とその家族、そこにつながる沢山の人々の名づけようもない感情が三十一文字に込められています。いつ眠り、いつ食したのかも定かでない戦場のような医療現場にいながら、湧いてくるものをことばにすることが、辛い居場所にかろうじて踏みとどまる力になることもあるのでしょう。

 

マラソンと 同じさ遥かゴールまで 次の電柱 目指して走る

 

コロナ感染症の治療に関わる多くの「犬養先生」に、心からの感謝と敬意を捧げます。わたしたちもともに、「普通の日常」が1日も早く訪れることを祈ります。