院長から

福井敬さん ふるさとに歌う

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24日、水沢Zホールで行われた「福井敬 ふるさとコンサート」。感染防止のため入場制限はあったものの、客席はほぼ満席でした。歌うのは、水沢出身で日本を代表するテノール歌手、福井敬氏と、同じ水沢出身のソプラノ歌手、松井亜希氏。新型コロナウイルス感染症の拡大で延期になっていたものがようやく開催できたこともあり、観客は「身を乗り出すように」して、歌に聴き入りました。福井さんの歌で始まり、続いて水沢の”後輩”である松井さんの紹介。2人の歌が交互に続き、途中にZホール少年合唱団と水沢高校音楽部の合唱をはさみました。

あっという間にプログラムは進み、フィナーレの主演おふたりと水高音楽部とで歌う『花は咲く』には、こみあげるものがありました。思えば3.11東日本大震災の後、わたしたちは生きるための沢山の「必需品」を確かめながら暮らしてきました。電気、水、食料、家……。それらにはきりがありませんでした。そしてあの頃、それ以外の「自分にとっての必需品」を強く望んだ人もいました。音楽、活字、1枚の絵……。素晴らしい歌に包まれながら、音楽は人の心をこんなにも揺さぶり、励ます力があるのだと震えるような思いでした。

コンサートのサブタイトルは「祈り」となっています。ステージの上で歌う人たちとともに、観客は心の中で、あるいはマスクの下でこの曲を歌いました。そのとき、一人ひとりの胸の中にある祈りが結集して、会場のあたたかさを作り出していたと思ったのはわたしだけでしょうか。

鳴りやまぬ拍手と何度かのカーテンコールのあと福井さんが歌ったアンコール曲は、おそらく観客全員が待っていたアリア「誰も寝てはならぬ」でした。この曲を聴いて、誰もが満ち足りて帰路についたことでしょう。