院長から

「はらぺこあおむし」のこと

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去る5月27日、絵本作家エリック・カールさんの訃報が伝えられました。テレビニュースの画面には、あの色鮮やかな、あおむしがこちらを振り向いている姿の絵本「はらぺこあおむし」の表紙がありました。

このカールさんの展覧会が岩手県立美術館で開かれたのは、2017年の秋でした。沢山の絵本や原画が展示されましたが、中でもわたしが興味を惹かれたのは、「はらぺこあおむし」の出版にまつわる一文でした。約50年前、この本は製本技術のむずかしさから、各国の出版社から出版を断られていたといいます。それも道理? 本はページ毎に大きさが違い、あおむしがものを食べた後の穴がくり抜かれているのです。

1968年夏、休暇で日本を訪れていたカールさんの担当編集者が、児童書を出版する偕成社の当時の社長に見せたところ、社長は色彩の美しさと発想の斬新さに心を動かされ、「うちでやりましょう」と、出版の運びとなったということでした。このときの本は米国(英語)で出版され、日本語版はそれから7年後に出ることになりました。

今でこそさまざまな「しかけ絵本」がありますが、50年前にこういう本の出版を決めたのはかなりの英断だったのでは、と思います。この「変形本」は、あっという間に世界中の子どもたちに受け入れられ、今や世界50ヶ国で翻訳、出版部数は5500万部にのぼり、日本の翻訳絵本では発行部数第1位となっています。

初めてあの絵本の出会ったとき、わたしは充分おとなだったのですが、衝撃が忘れられません。年を経て、我が家の我が家の庭を美しい蝶が飛ぶことを大いに歓迎しながらも、庭の野草を食べる青虫を恨む、矛盾に満ちたわたしです。