わたしは今、奥州市の在宅医療介護連携協議会委員の任をお受けして、定期的に会議に出席しています。この協議会は文字通り、今在宅でお暮らしの高齢者が自分らしく、また、できるだけ自分の望む地域での暮らしを続けるために、医療と福祉の関係機関が連携して支援するための体制整備を目的とした会です。
奥州市の在宅医療介護連携事業の取り組みの一つとして、広く市民を対象として「わたしの生き方ノート」を作成し、配布すると同時に、書き方講座も行っています。このノートの内容は、一般的に「エンディングノート」と言われるものとほぼ同様です。平成29年度からの取り組みですが、現在までに配布部数は6,300冊を越えたといいます。
わたしも一冊頂戴しましたが、書店で売っているエンディングノートと比較しても「なかなか良くできている」という実感がします。まず第一に、薄くて(全22ページ)軽い。軽いというのは、特に高齢者にとっては大きな美点ですし、あまりに仰々しい装幀のものだと、記入するのについ構えてしまうこともあるでしょう。そして、手で丸めることのできる薄さには「まず書いてみて、あとで書き直してもいい」と思わせる気楽さがあります。見開きの1ページ目には「1.好きなところから書き始めましょう」とあり、市の地域包括支援センターでは、書き方講座の「出前」を行っていることからも、「気軽にどんどんノートを活用してほしい」という気持ちが伝わります。
わたし自身も、自分のノートを書いてみました。「1.好きなところから――」のアドバイスのとおりに、前半は全てすっ飛ばし、写真を貼るページも無視し、「わたしに何か起こったとき」から書き始めました。現在の自分の年齢や、同居家族のことを考えたとき、わたしにとって最も大切な記録(書き残しておきたいこと)は、ここより後ろのページです。常日頃、頭の中では「これについてはこうする」と考えが決まっている――そう思っていたことも、「書く」という行為によって、実はかなりあいまいなものだったと思い知らされたりもします。
会議に出席している委員の職業は、医療、介護職全般に渡っています。どなたも、自分の受け持ちの患者さんや、介護相談を受けている方に、このノートの記入をお勧めしている様子でした。高齢になってからの病気への向き合い方や、治療の方針についての希望を記すページもあり、「こういったものは『即断』で書ける方ばかりではないが、本人による記録(意思表示)があると大変助かるし、本人も納得がいくだろう」というのが、会議に参加する医師の意見の大半でした。
人生の終末について口にすることは、不吉なこととして日本ではタブーにされてきたところもあります。しかし、多くの方が長生きをするようになった今、終末までの準備期間にも猶予がありますし、終末に至るまでの経過も人それぞれです。医療や介護のシステムがある程度整い、多種のサービスの中から選択肢がある場合、あらかじめ自分で考え、決めておける事柄もあるでしょう。
まず手始めに、自分の気持ちを文字にしてみてはいかがでしょう。新たな自分を発見できるかもしれません。「わたしの生き方ノート」は、奥州市役所2階の地域包括支援センターで配布しています。