常務(前院長)だより

雨の似合う花

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岩手が梅雨入りしたと聞いて数日後、沖縄は早や梅雨明けなそうです。沖縄の梅雨明けは例年より2週間ほど早いとのことですが、日本はつくづく「縦に長い国」なのだと実感します。

6月の花をイメージするとき、日本人が真っ先に思い浮かべるのは「あじさい」でしょうか。あじさいは色や花つきの形も様々ですが、全国各地に「あじさいロード」「あじさい寺」「あじさい公園」があり、広く愛されている花だとわかります。この頃は、母の日にカーネーションではなくあじさいを贈る人も増えているやに聞きます。

福寿荘でも数年前から、入所なさっている方へ、母の日にあじさいの鉢が届くことがあります。一見「花びら」と思う部分は、実は花ではなく「がく」なのだということは、今は多くの方がご存じでしょう。色も、淡いものから紫に近い鮮やかなものまで多様ですが、派手な主張がなく、白に近い色合いのものは、暗がりの中にもひっそりと明るさを放ち「今頃気が付いたんですか、わたしはもうずっと前からここにいますよ」というような佇まいです。なんとなく奥ゆかしさもあり、梅雨の雨に濡れている風情も、日本人の季節を愛でる心にぴったりと合うのでしょうか。

ときに、チューリップの国であるオランダに日本のガクアジサイを持ち帰ったのは、江戸時代に来日し、長崎に住んだ医師であり植物学者でもあったシーボルトだと言われています。水沢の偉人である高野長英がシーボルトに学んだことを、ご存じの方も多いことでしょう。シーボルトは日本人の愛人「お瀧さん」との間に子供をもうけていますが、オランダへ帰国した後、持ち帰ったあじさいの学術名を、彼女の名前から「ОTAKUSA(オタクサ)」にしようとした、という記録があるそうです。

雨に濡れるあじさいを見ながら連想は続き、今夜から「お瀧さん」の娘であり、のちに産科医になったお稲(オランダお稲)のことを書いた「ふぉん・しぃぼるとの娘(著:吉村昭)」を再読しようかと思ったことでした。