常務(前院長)だより

ブックカバーの記憶

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先日、新幹線の車内で、30代とおぼしき女性と隣席になりました。わたしはいつものように、バッグから文庫本を取り出して読み始めようとして、隣席の方の膝に一冊の本が置かれているのに気がつきました。何かのインタビュー集のようでしたが、書名は見えません。いま電車に乗るとほぼ9割方の人は着席するなりスマホを取り出し、その画面に見入っています。車両の中で本や新聞を読む人は、希少になりました。社内で読書する人を見かけると、嬉しさのあまり「何を読んでいるの?」と思ってしまうのは、わたしの悪い癖です。

女性は熱心に本を読みだし、私も自分の手元の本に没頭していました。彼女は水沢江刺駅より前の駅で降りたのですが、降り際にわたしの目の前を横切ったのは、老舗の本屋「紀伊国屋書店」の紙袋でした。本好きならよく知っている、ベージュの地色に紺で書店名が書かれているだけの「愛想なし」だけれど印象の強いデザイン。「ここにも本を愛する人がいる」と、勝手にほくそ笑むわたしでした。