11月24日、作家の伊集院静さんの訃報が伝えられました。満年齢73歳。管内胆管がんのため作家活動を休止する旨を、
年2回発行の法人広報紙「ふくじゅ」には、
『それがどうした?』
大震災のあと、本が読めなくなった人が沢山いた。わたしもそうだった。震災後のテレビニュースの映像、特にも津波の映像に絶句し、画面に向かって思わず「あー」「えー」と声が出る。言葉を失うとはこのことだ。
「淫する読書人」のわたしは、ありとあらゆる場面でそのとき読む本を選ぶのが楽しみのひとつだが、今度ばかりは参った。読書することでいっとき平静になりたいと思うのと、こんなときにも本が読みたいの? と内心のせめぎあいがある。
仙台に夫人とふたりで暮らす某作家は、震災直後から数日間の夫人の生活者としての優秀さを驚きの目で見ている。仙台生まれの夫人は三十年前の宮城県沖地震も経験し、普段から地震に対する備えを怠らなかった。今回も作家が気づいてみれば、家の本棚は倒壊防止のポールで支えられており、物置からは反射式ストーブが出てくる、非常持ち出しのリュックにはしかるべきものが準備され、揺れがおさまってからは夫人は近所の老人たちに声を掛けたり、近隣への炊き出しをしたりしている。「男の流儀」は、女子供を守るものとして常に説いている彼は夫人に圧倒され、あっけにとられて見ているだけだ。
そんな震災後の日常を淡々と、ときには自衛隊の救援活動や国の対策について強い語調で書いているエッセイを目にし、今この人の本なら読めるかも、と手に取った。彼は週刊文春に『悩むが花』という人気の人生相談コラムと、別の週刊誌には『それがどうした』というエッセイを連載している。無頼派といわれる彼の小気味良い一刀両断にひとり笑いをすることも多い。あまりに「楽しい回答」は、悲しい気持ちになったときの自分のお守りのためにコピーをとって保存することがある。
たとえば、「今暮らしている女と別れたいのですが、(相手が自分に夢中で)どうしても別れてくれません、いい方法はありませんか?」「君、そんなことは簡単だよ。女と寝たあと、布団の中でク○をしなさい。すぐ別れてくれるよ」という具合。
こんなことがさらりと言えてさまになるのは、彼、伊集院静が、上京し出版社を訪ねると女子社員がことごとくそわそわするという伝説の「もて男」だからであろう。彼は新婚の前妻を亡くしたあと、重度のアルコール依存症や荒れた暮らしから抜け出して作家生活をしている。『男の流儀』『伊集院静の流儀』『なぎさホテル』はそんな日々から生まれた本だ。一度は、いつ死んでもいい、となげやりに生き、そこから浮かび上がった人の不思議な肝の座った文章が心にしみて来る。
彼の前妻は女優の夏目雅子、現夫人はやはり元女優の篠ひろ子である。「それがどうした」と伊集院さんなら言うだろう。
謹んでご冥福をお祈りします。